#22 あさか開成高校演劇部
ほんとうの空 福島の空
2012年春、あさか開成高校演劇部の子ども達とその教員とで一つの芝居を作った。タイトルは「この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?」。
元々は「ほんとの空」というタイトルで、2011年に福島で行われる総文祭で上演する予定だった。しかし、大震災による原発の事故が起こり、上演は中止。残る爪痕や事故の影響により、皆はテーマとなっていた「ほんとの空」を、今の福島の空に感じることが出来なくなってしまった。
“「ほんとの空」を表現できなくなってしまった自分たちの気持ち”を表現しようか。
「私たちの今を、とにかく叫ぼう」。タイトルは、「ほんとの空」から「この青空は、ほんとの空ってことでいいですか?」へ変わった。そして採用されたのが、台本を使わない“エチュード”という芝居方式だ。状況や場面、人物の性格だけを設定し、その場の受け答えを基に役者が動作や台詞を創造していく。いわゆるアドリブ劇だ。最初は皆、なかなか自分の本音を出せなかった。しかし自分の奥深くから出てきた嘘のない言葉が積み重なり、それを受け答えすることで、今までにないような大きなものとなった。そうして出来上がったものは数時間にも及ぶものとなった。
やるのなら全力で、満足するまで。
震災から一年後である2012年3月10日・11日、東京公演が行われた。しかし震災が起きた日に東京へ行くということに、部員それぞれの思いがあった。最初はこの舞台を「風化させないために」と何よりも優先してやってきたが、それ故に犠牲にしてきたものもある。「でももうちょっと頑張るべ」。多くの人と出会え、多くの人が応援してくれるようになった。3月11日という特別な日に、福島に残りたいという気持ちと、東京という大きな舞台で人々に伝えなければという気持ちがあった。しかし中途半端な気持ちでやれば伝わらない。やるなら全力だと。
感覚の違いをかき混ぜて、一緒に考える
今福島に住む人たち一人ひとり、それぞれ思いが違う。震災や放射能についてどこかで考えてしまう一年間。反面、震災の話題が減ってしまい、ほとんど気にしなくなってしまっているのでは、と感じさせる東京。演劇によって感覚の違いをかき混ぜて、皆で一緒に考えていきたい。
成長していく部員達は、いつの間にか平和ボケの高校生ではなくなっていた。しっかり見据えて歩こうとしている姿がそこにはあった。「子供たちの感じることを寄り添って認めてあげること。それが僕ら大人のしていかなくてはいけないことなんではないかな」と、教員は語った。
BS12ch TwellV 4月7日、14日に放送されました。